一般社団法人 農業経営支援センター


−作物別の多様なオーナー制を実施−
中山間地区活性化事業のモデル−栃木県茂木町
HP編集部


1.町全体が町興しを継続実施

栃木県茂木町は茨城県の水戸と栃木県の宇都宮を結ぶ123号線の沿線部の町だ。北部には季節にアユの魚影も濃い那珂川が流れ、この流域の山間部に今回紹介する多数のオーナー制度が展開している。
茂木町は人口17,000ほど。土地利用面積9,726haのうち58.5%が山林、13.6%が畑、12.6%が田であり、中山間地というべき地区。しかしにぎやかな市街地もあれば、町はずれには共同ショッピングセンター「もびあ」(平成5年)ある。見てのとおりモダンな「道の駅もてぎ」もあるが、平成8年の設置で農産物直売所、地元素材を生かした飲食店4、土産店、情報館を含み、年商5億円、直売所だけで2億円売る。  
平成9年には「ツインリンクもてぎ」という2つのコースを持つサーキットもでき、多目的なモータースポーツフィールドとして利用され、熱気球インターナショナルチャンピオンシップも開催された。第3セクターの真岡鉄道には週末にSL(蒸気機関車)が走る。ホテルなど宿泊施設も多数あり、川辺にはキャンプ場もあって、全国からの年210万人の客がやってくる。


(上)「道の駅もてぎ」 (右)ゆず製品コーナー

うわべだけの町興しではなく、昭和29年の1町+3村の合併いらい、地道に「美しいまち−環境」「やさしいまち−ひと」「知的なまち−未来」をテーマに、快適で安全な生活空間、生きがいと元気に満ちた社会、歴史と伝統を愛する心豊かな人づくり、生産の喜びと活力に満ちた町づくり・・・を推進してきたのだ。たとえば、市街循環バス「めぐるくん」を運行したり、「元気アップ館」を拠点に福祉も充実、平成15年には「美土里館」という大規模な堆肥処理施設をつかり、生ゴミ、家畜の糞尿、落葉、籾殻、オガクズを回収し、堆肥化しバラだと1トン4,000円、配達料2トン1台1,000円、10kg袋400円で販売している。

2.葉タバコに代わる特産品振興

ところで、オーナー制度は田畑や立木のオーナーを地元や都会地から募集し、年1〜3.5万円を払ってもらい、これに見合った収穫物や、各種の楽しい体験イベントに参加してもらう制度である。町の農林課が案内窓口になっていて、すでにユズ、棚田、ソバ、ウメ、タケ、キノコ、竹などをテーマにした9つ以上の事例が生まれ、広く各地との交流が進み、元気で楽しい中山間地を実現している。
茂木町の農業について触れると、平成17年で農家数1,232、うち専業210、兼業1,022、農業就業人口1,875、高齢化が進み65才以上がうち70.9%である。平均耕作面積は0.95haで、周辺市町の中では最も面積が少ない。昔は葉タバコ栽培が盛んだったが壊滅し、荒れた不耕作地が増え、過疎化や高齢化も一段と進んだ。「なんとかせねば」という新たな集落興しの気運が生まれ、山内地区の現「ゆずの里・かおり村」で、地域振興について話し合いの末、「八溝ゆず生産組合」が設立されたのは昭和60年のことである。
古沢地区には古くからユズの大木が数本あり、ユズの栽培に適していることに注目し、町の指導もあって「ユズによる集落興し」が計画され、平成60年から増殖を手掛け、いまでは7,000本が植えられ、保冷庫、加工施設も持ち、生食用として出荷されたり、多数の加工品が作られているのだ。オーナー制度は平成5年にスタートしたのだが、いまでは400人の会員がいる。年会費1万円でゆずの木1本のオーナーになれる。イベントは開村式、収穫祭の参加、山菜摘みなど年3回が計画されている(下記の著書より)。
豪雨の中を車で走ると各所に「○○農園」の看板があり、昨日イベントをやったのかその横断幕も見えた。一方、道の駅の土産物コーナーには、壁面10尺ほどをさいて、ユズをベースにした味噌、こしょう、ジャム、ジュース、ようかんなどの加工品約40アイテムが売られている。

3.兼業農家も参加し一体感生む

古沢地区の成功が起爆剤となり、他の地区でも@地域興しの会合―A振興計画―B専門協議会の結成−特産品の作り−オーナー制度・・・と進んだ。これを「縦糸」とすると、@町の指導・支援―A県・国の助成策−B道の駅開設−C宿泊施設の充実−D大規模な堆肥処理施設「美土里館」・・・などは「横糸」と言える。両者があいまって「中山間地の活性化」という美しい布が織られているように思う。詳しくは「食の地域ブランド戦略」(新評社、関満博・遠山浩著、2,600円)に、28ページにわたり紹介されているので購読をお勧めするとして、できるだけ見聞したことを中心に紹介したい。
入郷地区の棚田は「日本の棚田百選」にも選ばれた。「この美しい棚田を守るには、兼業農家も含め楽しい集落にして行く必要がある」と平成13年に棚田協議会が設立され、全国から100人のボランチアも受け入れ、平成15年からオーナー制度も立ち上げた。入郷の棚田地区を訪ねたが、ある兼業農家の高齢主婦は、「この当たりはイノシシも出る地。日照時間も少なく、兼業で労力も充分かけられないので、10アール5〜6俵の収穫。息子は兼業に出ているが棚田協議会のメンバー」とのこと。
入郷棚田保全協議会の大町弘志会長と、もう1人の会員に話を聞いたが、現在受け入れ農家は9名で、オーナーは59名という。9名中3人はシイタケ栽培で成功を収めている専業農家のようだ。40代が2〜3人で、あとは50代以上の人だが、40代が少ないなりに参加しており、郷土活性化にかける意気込みを感じた。
オーナー分の水田は、1人1アールで計60アール、品種はコシヒカリである。減反分の休耕田を当てるため、畔や水路を修復するなど受け入れ準備作業も大変という。棚田ごとに9人が5班に分かれ総合的指導に当たるが、オーナーもプロ並みに熱心で年10回も来る。1人当たり30坪ほどの計算だが、収穫出来たら出来ただけ持ち帰ってもらうから40〜60キロになるそうだ。オーナーは県内70%で、残り30%が東京や神奈川の人も含む県外の人。半数は60代以上で、家族連れのばあい小学生の子供さんがほとんどで、中・高校生はいないとか。


  (左)棚田米で造られた「棚田の雫」      (右)「かぐや姫の郷」の休憩場兼売店

3万円との間に差額はあるものの、労力まで考えれば無報酬に近い。しかし「交流を通じ、情報や元気をもらえればそれで良いので、自然体で続けている」とのこと。道の駅では「棚田米」も売られ、これを酒造した「棚田の雫」ブランドの日本酒も売られていた。交流を通じ、きれいな水で作った棚田米が広く知れわたれば、経済効果が得られないわけではない。目先の経済効果だけを求めれば交流は進まず、何も生んでくれないのではないか。
「かぐや姫の里」のある竹原地区も訪ねた。ここは平成15年から協議会を設立して郷興しを開始し、翌年に竹林と棚田のオーナー制度をスタートさせた。年会費3万5千円だが、「イベントが多種で、最も充実している」と地元民は自慢していた。確かにタケノコ掘り、竹林整備、田植え、草刈3回、イネ刈り、イネの脱穀のほか、ホタル観賞、バーベキュー大会、クリ拾い、すいとん料理、イモ掘り、しめ縄作り、餅つきと4〜12月にかけイベントがびっしり組まれている。放置畑でブルーベリーの栽培も始め、すでに販売も開始され、その収穫も新たなイベントになっているようだ。
地区の中央に、竹を豊富に使った休憩場がある。竹細工、竹炭、小盆栽、ブルーベリー、野菜なども直売している。地区の人が交代で2〜3人きて、遠来の客に無料でお茶を出したり、店番をするようだ。
「かぐや姫の里」で会った兼業農家の方は、「今日は当番なので、この休憩小屋に来ているが、都会の人と交流できるだけでなく、毎日当番同士の交流もできる。兼業が増え、近所付き合いが疎遠になっていたものが、楽しい付き合いに戻った。1人暮らしのお年寄りにも声を掛けるようになり、一体感が生まれてきた」と、正直な気持ちを語ってくれた。

4.オーナー制度の本質は何か

その他の地区のオーナー制も簡単に紹介しておくと・・・
「天神梅と竹林の里」  梅の木1本のオーナーで年1万円。1本の木から30kgの梅が収穫できる。花見会、タケノコ掘り、収穫祭、イモ煮会と年4回。(烏生田地区)
「棚田の郷かぶと」  棚田のオーナーで、年3万円。田植え、草刈り、イネ刈り、ユズ狩り、ホタル観察など年8回。(山内甲地区)
「そばの里まぎの」  ソバ畑50平方bのオーナーで、年1万円。ソバの種まきから刈り取り、ソバ打ちの体験と年4回。ここには農村レストランの「そばの里まぎの」があり、ソバ打ちの体験もでき、年26,000以上の客が訪れるという。(牧野地区)


(写真)「そばの里まぎの」。農村テストランと言えるものは道の駅内、その他にもあり。

「しいたけの里」  ほだ木50本の5年間にわたるオーナーに。加入時3万円でその後は年3千円。随時に「したけ教室」に参加できる。(青梅地区)
「深沢パパスの丘」  日帰り貸し農園で、ジャガイモ、トウモロコシのオーナー。1万円。地元農家と一緒にパパス物語を描く・・・というロマチックな年3回のイベント。(深沢地区)
「虹色の里あじ彩」  3種類のキノコのほだ木20本のオーナーで、随時に参加。加入時1万2千円、翌年2千円、3〜5年は無料。
なお入郷石畑の棚田、天神梅と竹林の里、かぐや姫の郷、そばの里まぎの・・・などは全国規模の優良事例として表彰されている。また本年8月24、25日には全国棚田サミットが茂木町で開催され、地元と遠来の客も合わせ1,200人が参加した。
さて、オーナー制度の果たす役割はなにか。農村と都会の交流は「バスで消費者を招待していては、金と手間ばかりかかる」ということで、どこでも進んでこなかった。金がかかるのでは長続きしない。逆にサービスに見合った実費を負担してもらえば永続的な交流ができる。実費をもらう程度だから儲かるものではない。入郷の棚田オーナー制度で3万円もらっても、60人分で180万円。これを協議会メンバー9人で割れば20万円にすぎない。収穫した米全量を差し上げれば、労力分がはき出しになるはず。
オーナー制度は、長期的な展望で考えるべきだと思う。つまりグリーン・ツーリズムの一つとして、@農村・農業の楽しさ、厳しさを理解してもらえる、A地元特産品の美味しさ、料理法など知ってもらえ、子供さんなどに対する食育にも貢献できる、B交流を通じ、情報も入れば楽しいさも付加される、C地元の専・兼業の別なく一体感が生まれ、過疎化にも歯止めがかかる・・・など、農業者としての喜び、満足が得られる。
しかし心の満足だけでなく、D特産品の固定客が出来、常時の通信販売も可能になる、Eオーナーがクチコミで、@Aの理解や特産品の宣伝をしてくれ、通販の輪が広がる、F地元を訪れる人が増え、道の駅の各種売店や農村レストラン、宿泊施設も潤い、町全体が活性化される・・・といった経済効果もある。それには、個性あふれた商品開発といった生産面の努力が必要である。ユズ味噌、ユズこしょう、ユズジュース、棚田米、棚田の雫(酒)などがその良い例である。地域活性化には以上のように特産品作りに沿った生産の振興と、消費者との交流が一体化することが望まれるのではないか。
あとで、電話で役場の農林課で集落営農についての意見もうかがったが、「新農政としての集落営農作りと切り離し、地元活性化の自発的な意識に沿った集落営農を先行させている。なにせ耕地面積が狭く、特例の適用を受け10haの面積を集めるとしても、時に2集落にまたがることになる。うっかりすると集落の和を壊すことにもなりかねない。助け合いの精神があって初めて、共同作業や機械の共同利用も進む。リーダーの育成、東北地方の集落営農の成功例の視察などを経て、ゆっくり着実に集落営農を育てようと思っている」とのこと。

(文責・近藤穣)



 
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